前中後晩に一貫していること

ウは、前期と後期でかなり異なった思想を持っていたと言われています。同時に、後期の代表的著作は前期の代表的著作を理解して初めて理解されるだろう、ということをウ本人が書いているように、前期後期に一貫する問題意識があったことも確かです。『入門』では、論理形式の語り得なさ・文法形式の語り得なさ・生活形式の語り得なさ、ということにおいて、前期中期後期を通して変わらない洞察を持っていた、と書かれています。

5.5563
実際、日常生活のすべての命題は、そのあるがままで、論理的に完全に秩序づけられている。われわれがここで与えなければならない、あのもっとも単純なものとは、真理の比喩ではなく、欠けるところのない真理そのものである。
(われわれの問題は抽象的なものではない、おそらく、存在する問題の中でもっとも具体的な問題であろう。)

『論考』
http://tractatus-online.appspot.com/Tractatus/jp/index.html

入門書や解説書を読んでいると必ず出てくる『論考』の代表的な一節です。ここもまた、前期中期後期を通じて変わらない部分だと思います。
隠された本質、深遠な思想、あるいは、「無知の知」的な考えとは対局にあるこうした考え方が、ウの考え方の最も大きな魅力の一つであります。