日記

おれは上り坂を上って行くぞ。「死」のことはわからぬ、わからぬけれど上り坂だ。
中野重治

短篇『写しもの』の主人安吉《やすきち》(作者中野と同年配・五十歳そこそこ)の心合語。森鴎外《もりおうがい》作『妄想』中の有名な〝死を怖れもせず、死にあこがれもせずに、自分は人生の下り坂を下って行く。〟にたいする安吉の「何をぬかすか。そう書いたとき、鴎外その人は年いくつだったというのか。」という思考に続くもの。壮年期へ歩み進もうとする作家中野の文学的・人間的なたくましい決意表明。おなじころ「わたしの上に、壮年期以後の努力の美しさがありますよう。」〔「新潮文庫」版『中野重治詩集』の「前書き」〕という言葉もある。


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