渡邊さん

著者の態度は基本的にカント的なもので、問題に対して解決を与えるのではなく、問題を通して人間の限界を見出そうとする。伝統的な意味づけのシステム(ここではキリスト教の神)が崩壊し、人間が自分自身でおのが生に意味づけを与えなければならない近(現)代の状況のなかで、過度な「意味の欲求」が、生を「退屈」か「面白いもの」かの絶対的な二者択一に追い込んでいく傾向を指摘し、小さな事件の連続としての、退屈とともにある小さな生を肯定する態度を、ごくつつましやかに主張している。その主張はきわめて凡庸なものだが、しかし過剰な情報と変化にまみれた現代を生きるわれわれにとっていまや退屈がひとつの「贅沢」であるとさえ思われるほど生きるのに忙しい昨今、このような小さな生の肯定は必要なものであると思う。


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