人を物として見ない

人を物のように扱う、ことは、普通、良くないことだと感じられる。ところが、ある種の言い方の中には、人をまるで物のように扱うことが、良いことだと思えるような、ものがある。
人をまるで物のように扱うことが良いことだと思えるような言い方が批判対象としているのは、人間を物ではなく人間として尊重しようという考え方ではなく、自分の希望に沿うような行動が自発的にされることを期待するような考え方、ということになる。

立派な大人なんだからベンチで寝たりしないようにすべき、寝ないのが当然だ、のようなことを期待したり他人に望んだり推奨したり命令したりするのはいけないことで、寝ることができないようなベンチに作り変えることは、良いことだとされる。いや、良いことだとはされてはいない、ような気はしますが、実際には、寝ることができないようなベンチに作り変えられる例はあります。

「個々の人の努力や意識に期待するのではなく、仕組みを変える」と言うと、これは良いことのように聞こえます。こういうのは良いことだ、というのは今までに何度も聞いたような気がします。「「自己責任」にはしない。社会の仕組みで……」とここまで言うと、この例はかなり良いことのように思えてきます。具体例で考えないと意味はないかもしれません。ベンチのことを考えた直後にこのことを思うと、まったく良いように聞こえないからです。